出版オーディション株式会社とは

「本」には説得力がある

  

「自分が著者となって、本を出版する」。

多くの人にとって、それは非常にハードルが高いことだ。世間一般に名が知られた人、あるいは何らかの専門分野で突出した実績を挙げている人でないかぎり、出版社から書籍出版をオファーされることはまずない。「自費出版」という方法もあるが、多額のコストがかかり、本の売上で費用を回収するのは難しいのが現実だ。

そんな「書籍出版」のハードルを下げ、20代~30代の社会人や学生などにも「著者デビュー」のチャンスを提供するのが、2020年にスタートした『出版オーディション』。企画・運営を手がける出版オーディション株式会社・代表取締役の永倉尚樹は、「本」の価値をこう語る。

「今はYouTube、Instagram、Twitter、TikTokなど、自分を発信するツールがたくさんありますが、『本』は説得力や信用力において老若男女から安定感があります。例えば人に『SNSでフォロワー数万人』と伝えたとしてもSNSに興味が無い方だと響かない場合がありますが『著書を全国の書店に出版』となれば、その道で実績を挙げている人なんだ、と一目置かれる。そこから新たなチャンスが拡がっていきます」

出版オーディションには、A4・1~2ページ程度の企画書でエントリーが可能。「世間に支持されるテーマか」というマーケティング視点と同時に、著者自身の「想い」「人間性」を重視して審査がおこなわれる。

審査員は永倉自身のほか、ベストセラーを持つ著者、困難を克服してきたプロ格闘家など、多様な分野からのメンバーで構成されている。オーディションの様子はYouTubeにて公開。勝ち抜いた人には、本人の負担金ゼロで全国書店での著者デビュー、大手書店でのポスター設置が約束される。

本格的な立ち上げ前、実験的にSNS広告を出して4日間ほど先行応募を受け付けたところ、予想以上の反響があったという。

応募があった企画内容は多種多様。「海外各国を旅して感じたことを伝えたい」「いっぱい努力し、いっぱい傷ついた女子高在学時代の自伝を書きたい」「アングラな人生と普通の人の人生を比較して描く小説を書きたい」「愛犬のための手作りフードレシピを本にまとめたい」――短期間で寄せられたさまざまな人の想いに触れ、永倉はこの事業への潜在ニーズが高いことを確信した。

「自分の経験、知識、想いを広く発信したいと願う人がこんなにたくさんいるんだと実感しました。『応援したい』と思える応募者に出会えたら、その人の夢の実現を後押しできれば、と思います」

自身の「著者デビュー」経験から、出版の価値を実感

永倉が「出版」の仕事に携わるのは、これが初めてのことだ。それまでは異分野のビジネスを手がけ、成功を収めてきた。

学生時代、アパレル通販会社を起業。その後、一級建築士事務所に弟子入りし、デザイナーズマンションの企画・販売を手がけるかたわら、不動産流通事業部も立ち上げる。不動産流通の知識を深めた後、2013年、株式会社リベルタを設立。SNS を活用した物件紹介など、斬新な取り組みが評価され、2013年~2015年にかけて『フジサンケイビジネスアイ』の注目企業ランキングにて何度も1位を獲得した。その後、不動産コンサルティング、古民家再生、人財プロデュース、クラウドファンディング、地域おこしなど、幅広く展開していった。

永倉の「出版」への興味は、子どもの頃にさかのぼる。小学生の頃は漫画家に憧れ、「ケータイ小説」が流行った時期には作品を応募したりもした。20代で起業した後、著書を出している先輩経営者たちに「どうしたら出版ができるのか」と尋ねてみたが、「難しいよ」という反応ばかり。「夢は簡単に叶わない」と半ばあきらめていた。

そんな漠然とした想いが、ある日突然実現することになる。ある金融機関の営業担当者と話をしていたとき、こんな提案を受けたのだ。「社長の過去やビジネスの話、すごく面白いです。本にまとめてはいかがですか。よければ出版社をご紹介できますよ」。

これをきっかけに話が進み、2018年5月、初の著書となる『未来を拓く直観力』(クロスメディア・パブリッシング)を出版した。

永倉はその著書で、伝えたかったメッセージを形にした。

「『できる』『できない』ではなく、何がやりたいのか。失われかけた本能を呼び覚まし、自分を信じるほど潜在能力が発揮され、人生は楽しくなる」

この想いは、それまでの波乱の半生から芽生えたものだ。若くして起業し、ビジネスを軌道に乗せた永倉だが、その過程には数々の紆余曲折や困難があった。公務員を志し、ビジネスの一線を離れて勉強に集中し、1日100円の生活費で暮らした時期もある。10万人に1人という難病を発症し、死を意識しながらも、克服した経験もある。

成功体験に挫折を味わった体験、そこから得た自分なりの思考や生き方を多くの人に伝えたい――これまでの歩みを振り返りながら、1冊の本にまとめた。

その目次には「直観を信じることが成功への第一歩」「本能を呼び覚ます」「未来のための直観」といったメッセージが並ぶ。

「本を書くために過去を振り返り、掘り下げたことで、自分の強みと弱みを整理する機会になりました。物事に対し、リスク・メリット・デメリットなど、多角的な視点から捉え直すことができ、すごく視野が広がりました。だからこそ、他者の生き方や価値観に対しても理解、肯定できるようになったと思います」

本は自分の生き方を伝え、人間関係を築いてくれるツール

もう一つ、本を出版して良かったと思うことがある。自分がどんな想いでどんな仕事をしてきたかが伝わったことで、周囲の人々との関係性がより良い方向に向かったのだ。

特殊な道を歩んできた永倉を、両親は心配し続けてきた。父は「頼もしくなったな」と喜んだ。読書が好きで幼少期によく図書館に連れて行ってくれた母も、言葉には出さないがうれしく思ってくれているようだ。妻の家族や親戚も、不安定な自営業であることを懸念していただろう。本を出したからといって不安定さは変わらないが、しっかりした芯を持って仕事に取り組んでいることが伝わっていれば嬉しいです。

自身の子どももまだ幼い。「いつ何時、突然自分が死んだとしても、この本を通じて父の生き方や想いを伝えられる」
――そんな安心感も持つことができた。

 

家族だけでなく、ビジネスの面でも、著書への反応はポジティブだ。取引先や顧客からの目が変わったと感じている。異業種交流会では、他の経営者から「本を出されているんですね」と声をかけられ、食事に誘われることもある。

「私のビジネスは、仕組みや組織力によって運営するのではなく、個人の人間力が勝負。これまでは一人ひとりに向き合って対話し、『自分』という人間を伝えてきました。今はそれを、著書が代行してくれています。僕の本を読んでくれた方とお会いすると、初対面でも話がスムーズに運びます。最初から、ある程度の信頼を獲得できている。その効果は大きいと感じますね」

著書とは、自分の生き方や想いに共感してくれる人、仲間となって協力してくれる人を呼び寄せるツールにもなり得るのだ。

原動力は「好奇心」。
皆と一緒に社会にインパクトを与えたい

 

「本を出版する」。その価値を実感した永倉は、2冊目の出版を画策するうちに、「もっと多くの人を巻き込んで、出版のビジネスを展開できないか」という発想に転換した。著者としてだけでなく、「プロデュース」に興味が抱いたのだ。

いろいろなスタイルを探る中で、目を留めたのが「オーディション形式」。アーティストのオーディション番組が盛り上がっている様子を見て、さまざまな人が楽しんで参加できる形にできないかと考えた。

「私は若い頃から起業し、さまざまなビジネスを手がけてきました。『稼ぎたい』という気持ちももちろんありますが、原動力となったのは、いつも『好奇心』。本を書くにあたってこれまでを振り返ったとき、自分が『楽しい』と思えることに対して行動を起こし、その気持ちが人から人へ伝染して、結果的にいろんな人を巻き込んで、いつのまにか『ビジネス』になっていた。それが自分のビジネスの本質だと気付いたんです。だから、出版オーディンション事業も、純粋な好奇心に従って、多くの人たちと一緒に楽しみ、社会にインパクトを与えたい。そして、この活動によって著者デビューする人に『自分の人生を変えてくれた』と思ってもらえるきっかけになればうれしいですね」

出版オーディション株式会社 代表取締役 永倉 尚樹